不正解を伝えることが、なぜ逆効果になるのか

「間違っているよ」と伝えることは、常に助けになるとは限りません。フィードバックに関する大規模なメタ分析は、約3分の1のケースでかえって成績を下げると報告しています。すでに「分からない」状態にある子どもに、評価的な情報がどう働くのかを整理します。

現場の場面

問題解決型の課題に取り組んでいる。教科書にはまだ出てきていない解き方が必要な問題で、まずは自分なりに考えてみる時間になっている。ノートに書いた式を眺めたまま、鉛筆が止まっている子がいる。しばらく手をつけては消し、また眺めている。

机間を回っていた教師が手元を覗き込み、「あ、それ違うよ」と声をかけて、次の子のところへ移っていく。三十人を超える教室で、一人にかけられる時間はそう長くない。

本人は消しゴムで式を消す。だが次の一行がなかなか出てこない。何を書き直せばいいのかが分からないまま、白くなったノートを見ている。周りではもう次の段階に進んでいる子もいる。手が止まっている時間は、指摘される前よりむしろ長くなっている。

構造の解説

問題解決型学習は、子どもが自力で気づくこと自体に価値を置く設計です。そのため、支援を絞った状態のまま課題が提示されることがあります。基本的に、この時点で子どもは「分からない」状態に置かれます。

この状態への対処として、情報量そのものを絞るワーキングメモリ負荷対策は、すでにこのシリーズでも扱ってきました。ただし今回の論点は量ではありません。フィードバックには少なくとも三つの軸があります。どれだけの情報を渡すか(量)、いつ渡すか(タイミング)、そして何を伝えるか(内容)です。本記事が扱うのは三つめ、内容の質の問題です。

たとえ少量であっても、「あなたは間違っている」という評価的な情報が入ることで、負荷の性質そのものが変わりうると考えられます。すでに「分からない」状態にある子どもが、そこにさらに評価的な情報を受け取ると、注意が課題そのものから「自分はできないのか」という自己評価の方へ向きやすくなる可能性があります。課題に向いていた意識が自分自身の能力の査定に奪われれば、残っていた思考の余力はさらに削られます。

エビデンス

Kluger & DeNisi (1996) は、フィードバックがパフォーマンスに与える影響について、607の効果量・23,663件の観察を統合した大規模メタ分析を行いました(Feedback Intervention Theory)。フィードバックは平均的には成績を高めますが、全体の3分の1のケースではむしろ成績を下げる結果が示されています。この逆効果は、フィードバックが子どもの注意を「課題そのもの」ではなく「自己(能力の評価)」に向けさせてしまう場合に起きやすいとされています。

何を伝えるかの切り分けと、その限界

Feedback Intervention Theory自体の証拠水準は高いものですが、これを問題解決型学習の「分からない」状態に当てはめる部分は仮説にとどまります。直接検証した研究は確認できておらず、一般知見からの論理的推論であることを明記しておきます。

なお本項は「フィードバックをするな」という主張ではありません。問題にしているのは、評価に終始する自己志向のフィードバックが生じやすい構造的条件、つまりすでに「分からない」状態にあることです。

対になる課題志向のフィードバックとは、たとえば「ここまでは合っているから、次はこうしてみるとよい」のように、できている部分を示したうえで次の具体的な行動を示すものです。Iメッセージの形にすれば、「先生はここまで合っていると思うよ。次はどうする?」のように、判断の余地を子どもに残しながら行動情報を渡す言い方になります。

ただしこれには二つの限界があります。一つは受け手側の個人差です。FIT自体、フィードバックが自己に向くか課題に向くかは自己肯定感などの個人差にも左右されると指摘しています(高。成人中心の研究であり児童への一般化は仮説)。もう一つは比較の基準の有無です。行動を示されても、比較対象となる基準(教えられた解き方)が児童の中になければ、結局「分からない自分」への言及として受け取られやすくなります(仮説。本シリーズ独自の指摘であり直接の検証はありません)。伝え方は教師が設計できますが、受け取り方まで制御できるわけではありません。

「教えて考えさせる」との対比

教えて考えさせる授業(OKJ)では、説明段階で教師があらかじめ課題全体の考え方を伝えます。この設計では、理解確認の場面で誤りが見つかった際に「まだ理解が及んでいないところがあるので、もう一度説明する」対応がとりやすくなります。教えられた解き方が比較の基準になっているため、フィードバックはその基準とのズレを示す行動情報として機能しやすいと考えられます(仮説)。

この段階は、責任移行モデル(GRR)で言う、責任がまだ教師側に残っている局面と重なります(仮説)。

ただしこれは仮説であり、「OKJなら安全」と言えるわけではありません。OKJの理解確認フェーズも、やり方次第では自己志向のフィードバックになりえます。「分かった人?」という問いかけが、答えられない子どもにとって自己評価を促す場面になる可能性は、OKJでも同様に生じます。本記事の主張は、いずれの授業形態が優れているかではなく、「『分からない』状態が固定化する前にフィードバックが入る設計か」「フィードバックが課題志向になりやすい構造か」という設計上の条件の比較にとどまります。

まとめ

フィードバックの効果を左右するのは量やタイミングだけではなく、内容の質でもあります。「合っているか、間違っているか」で終える伝え方は、注意を課題から自己評価へ引き寄せる可能性があります。「ここまでは合っているから、次はこうする」と行動を示すこと、そしてその判断の土台となる基準をあらかじめ渡しておくこと。この二つが、構造として設計できる部分です。

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量の軸(ワーキングメモリの負荷)は別記事、問題解決型学習の分かりにくさ全般はこちらの記事で扱っています。タイミングの軸については近日公開予定です。

声かけの3段階区分はこちら、「子どもを見る」ことの実質はこちら、Iメッセージはこちらをご覧ください。

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