支援なしで一番難しいことを、なぜ最初にやらせるのか

教育

一人で解く。友達と相談する。みんなで話し合う。教師がまとめる。問題解決型学習の授業では、この順番が一般的ではないでしょうか。よく見ると、一番支援が薄い状態を、一番最初に置いています。これは普通のことなのでしょうか。この記事では、教える技術の観点からこの順番を見直します。

現場の場面

算数の授業で、新しい単元の導入問題が黒板に貼られます。「まずは一人で考えてみましょう」。ある児童は、ノートに日付だけを書いて、鉛筆を握ったまま止まります。何を問われているのかは分かります。ただ、どこから手をつければいいのかが分かりません。

前の席の子がもう式を書き始めた気配がします。時計を見ます。3分が経っています。教師は教室の反対側で、別の児童のノートを覗き込んでいます。

「困っている人は近くの人と相談していいですよ」という声がかかったのは、それから2分後でした。相談する相手は、たまたま隣に座っている子です。その子の説明が分かりやすいかどうかは、席順で決まります。教師が自分のところへ来たのは、さらに後のことでした。

構造の解説

教える技術の分野に、スモールステップの原則があります。支援を多い状態から少ない状態へ、段階的に減らしていく順序です。最初は他者の支援を最大限受けながら解き、慣れるにつれて支援を外し、最終的に一人で解けるようにする。初学者はまだ、情報を整理する枠組み(スキーマ)を持っていません。支援なしで課題に取り組ませると、負荷が過大になりやすいためです。

では問題解決型学習はどうでしょうか。冒頭で挙げた「一人で解く→友達と相談→みんなで話し合う→教師がまとめる」は、支援が少ない状態から多い状態へ向かう、支援漸増の順序です。スモールステップの原則とちょうど逆を向いています。最も負荷の高い状態、つまり支援なしで自力で解く状態を、初学者に対していきなり課すことになります。慣れていない子ほど、最初の数分間で最も重い負荷を背負います。

同じ結論に、応用行動分析(ABA)からも到達できます。ABAでは、行動の前に何を配置するかを「先行子操作」と呼びます。難しすぎる課題は、児童にとって嫌悪刺激になりえます。支援なしで最大難度の課題を冒頭に置く設計は、先行子側の調整——その嫌悪刺激をどう和らげるか——を、最初の時点で手放していることになります。認知負荷理論とABAは出自の異なる理論体系ですが、どちらも同じ結論を指します。支援は先に厚く、後から減らす。独立した二つの体系が同じ順序に行き着く以上、この逆転は好みの問題として片づけられません。

ここで一つ、混同されやすい点を整理しておきます。この記事が扱っているのは支援の「有無」の軸であり、課題の「難易度」の軸ではありません。難しい課題を最初に見せること自体は、支援漸減の原則と矛盾しません。教師が説明や実演という支援を付けて最終到達点を見せる技法は、支援を厚く与える行為そのものです。問題があるのは、難しい課題を最初に置くことではなく、それを支援なしで自力で解かせることの方です。

エビデンス

支援を多→少の順で減らす順序そのものを直接検証した研究群があります。guidance-fading effectです。解法を示された例題(worked example)から独力での問題解決へ移行する際、支援を段階的にフェードアウトさせる方が学習を促進することが確認されています(Renkl & Atkinson, 2003/Atkinson, Renkl, & Merrill, 2003ほか)。

この研究群が扱うのは、明示的な指導全般の効果ではありません。支援をどの順序で減らすか、その一点に絞った検証です。明示的教授の優位を広く示したKirschner, Sweller, & Clark(2006)とは射程が異なり、支援の順序という論点により的を絞った根拠にあたります。ABAの先行子操作の枠組みも、行動分析学で確立された理論です。

留保 ― 支援なしで始めてよい場面もある

支援漸減が有効であることは、裏を返せば「支援を減らす」段階が必ず必要だということでもあります。習熟した学習者に手厚い支援を与え続けると、かえって学習効率が下がることが知られています。支援を厚く始めることと、支援を厚いまま維持することは別の話です。

ここから、問題解決的に学ばせることが適切になる条件も見えてきます。その内容について、児童がすでに必要な知識と手順を持っている場合、支援なしで取り組ませることは支援漸減の終着点にあたります。既習事項を使う練習の場面、単元の終盤、発展的な課題。こうした場面では、自力で解かせることは原則から外れるどころか、原則が求めている手順そのものです。

つまり問題になるのは、問題解決的な学習それ自体ではありません。まだ枠組みを持たない状態、つまり新しい内容の導入場面で、それを最初に置くことです。同じ活動でも、単元のどこに置くかで意味が変わります。

「教えて考えさせる」との対比

「教えて考えさせる授業」は、説明フェーズで支援を最大限に与え、理解確認フェーズでは支援なしで解けることを目指します。支援が大きく減るのは、この理解確認フェーズです。理解深化フェーズでどこまで支援を残すかは課題によって異なりますが、少なくとも説明から理解確認までの流れは、支援を厚く始めて減らしていく原則に沿っています。

ただしこの整理は、問題解決型学習の設計そのものへの指摘であり、個々の教師が支援の順序を分かっていない、と言うものではありません。多くの教師は「まず自分で考える力をつけたい」という意図から、この順序を選んでいます。ずれがあるとすれば、その所在は授業デザインの構造の側にあります。

まとめ

スモールステップの原則から見ると、問題解決型学習の一般的な支援順序は、教える技術の体系と逆を向いています。問われているのは、自力で解かせるかどうかではなく、それを単元のどこに置くかです。次回は、この逆転が生まれる背景にある、支援タイミングそのものへの問いを扱います。

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