前回のQ4(目的地を先に見せる ― 一番難しい問題を、支援付きで最初に見せる技術)では、教師が支援付きで最難課題を最初に見せる目的地の示し方を扱いました。今回と次回のQ16は、その「見せ方=説明そのもの」の組み立て方を扱う2本連作です。

よくある場面
「一度しか言いません。よく聞きなさい」。多くの教室で使われる、ごく普通の一言です。ただしこの一言は、説明の中身を何も変えません。子どもに求めているのは、1回で全部を拾いきる集中力だけです。
一方、同じ場面で「今日は2回説明します」と伝えると、子どもの構えが変わります。1回目で全体像をつかみ、2回目で自分の穴を埋めるという2段階に、負荷を分けられるからです。この記事で扱うのは、この2つの対比です。
技法の核
同じ内容を、全体に向けて2回説明する。本質は回数ではなく、その前後に何を置くかにあります。

① 事前予告(1回目の前)
「今日は2回説明します。1回目は大体分かればいい。2回目で、自分が分からなかったところを集中的に聞くといいよ。後から急には助けないからね」
この一言が二つの線を引きます。一つは責任の線です。1回目を聞くのは子どもの側、2回目を用意するのは教師の側。予告なしに2回目を出すと「聞かなかった子への救済」になります。もう一つは聞き方の線です。1回目は粗い理解でよく、2回目は自分の穴を狙う精査の時間だと分けて渡します。
② 1回目の説明
通常どおりで構いません。
③ 質問タイム
「気になるところ、不安なところはあるか」を聞きます。挙手や発言だけには頼りません。どこで分からなくなったかを言葉にできる子は多くないからです。表情、手の止まり方、集中の度合いも見て、2回目で何を厚くするかの材料にします。
④ 2回目の説明
同じ言葉を繰り返す必要はありません。引っかかりが見えた部分は厚めに、情報のまとまり方自体を変えると効きます(D4のチャンキング)。誤ったやり方と正しいやり方を並べて見せる方法もありますが、これはそれ自体で独立した技法なのでQ22で扱います。
すでに分かっている子には、話す速さや間に強弱をつけて単調を避けます。加えて「先生より先に、自分ならどう説明するか考えてみて」と促すと、合っていれば理解の証拠になり、違っていれば見落としが見つかります。理解できた様子が見えた子に、2回目のあと短く一言認めると、指導の終わり方を大切にするQ15の原則とも一貫します。
2回とも全体向けであることが要点です。
弱点を抜き出して再構成した個別解説にはしません。埋める作業は本人が2回分の情報を突き合わせて行う、自分は何が分からなかったかを自分で確認する力を育てる技法でもあると考えていて、詳しくはQ29で扱います。
なぜ「一度しか言いません」より効くと考えられるか
「一度しか言いません」と「2回説明します」の違いは、記憶の仕組みで説明できます。

人は一度聞いただけの情報を、時間とともに忘れます(忘却曲線)。忘れかけたタイミングでもう一度触れると、素通りで済ませるより記憶に残りやすいことが知られています(分散効果)。加えて、2回目を聞く前に「自分は何が分からなかったか」を思い出そうとする質問タイムの時間そのものが、想起の練習になります(検索練習効果)。この2つは記憶研究の中でも証拠水準が高い部類です。
「一度しか言いません」は、この間隔も想起の機会も持ちません。1回で正確に符号化することを、子どもの注意力だけに委ねる精神論です。
もう二段、証拠の強さが落ちる話も付け加えます。「先読みしてから聞く」は生成効果に近い仕組みで、これも確立した知見ですが、この使い方自体の直接検証ではありません。また「概要を先に、詳細を後に」という順序は先行オーガナイザー等と構造が重なりますが、これらは中身の違う2版を想定した理論で、同一内容を繰り返す本技法とは別物です。
正直に言えば、「二度説明する」という技法全体を検証した研究は確認できていません。核となる分散効果・検索練習効果は確立していますが、応用するという具体的な形は、理論的推論の域を出ません。
反論の先回り
「だったら一回、集中して聞くよう指導すればいいのでは」という反論はありうるでしょう。しかしそれは忘却への対策を持たない精神論です。子どもがどれだけ集中しても、間隔を置かずに一度触れただけの情報は時間とともに薄れます。2回目という間隔そのものが対策になります。
まとめ

増やすのは説明ではなく前後の2つです。始める前に「2回話す」と予告し、1回目のあとに質問タイムを置く。これだけで、2回目は忘却への対策になります。
次回のQ16では、その説明そのものが機能するために必要な4つの技術を扱います。


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