授業の終わりに「今日の授業でわかったことを書きましょう」と指示すると、多くの子はただ感想を書いて提出します。実はこの活動、聞き方を少し変えるだけで、記憶を強化する検索練習そのものに変わります。振り返りが本来持っている効果と、その引き出し方を整理します。

感想は集まるが、学習内容は戻ってこない
算数の授業が終わるチャイムが鳴ると、黒板に「今日の振り返り」の文字が並びます。子どもたちはノートを開き、「楽しかったです」「がんばりました」と一文を書いて提出します。数分で全員が手を止め、教室は静かになります。
この光景は多くの教室で毎時間繰り返されていますが、書かれた内容を見返しても、その授業の学習内容と結びついた記述はほとんど見当たりません。感想を書く時間にはなっていても、その授業で何を学んだかを思い出す時間にはなっていない。指示が「書きましょう」である以上、提出の有無が完了の基準になり、中身がどうであれ活動は成立してしまいます。
本記事が扱う「振り返り」の範囲

先に2つの区分を整理しておきます。
評価のための振り返りとは別物です。 所見や評定の材料として使われて形だけになった振り返りは、ここでは扱いません。本記事が扱うのは、想起そのもの、つまり思い出す行為です。
1コマの中で完結する技法です。 年間を通じて振り返りの観点を育てていく話とは軸が違います。ここで扱うのは、1回の授業終末の数分間で何をさせるかという設計です。
思い出す行為そのものが記憶を強くする
学習内容を後から思い出す行為(検索練習)は、読み返すよりも記憶を定着させやすいことが多くの研究で示されています。「今日の授業でわかったことを3つ思い出そう」と問うだけでも、子どもはその1コマの内容を頭の中で検索し、関連する記憶も再活性化されます。
読み返しは目の前にある文字をなぞる作業ですが、思い出す作業は記憶の中から情報を引き出す作業です。この引き出す過程そのものが記憶を強化すると考えられています。
3ステップの技法
具体的な手順は3つの工程で構成されます。
- その授業で学んだ重要事項を3つ提示する
- その中で一番勉強になったものを一つ選ばせる
- なぜそれを選んだかを言わせる
A・B・Cから選ぶ工程が加わることで、単純な想起に加えて比較・判断・理由づけが同時に起こります。3つを並べて優劣をつけるには、それぞれをいったん思い出したうえで内容を比較する必要があるため、感想を書くだけの振り返りより認知的に深い活動になりうると考えられます。
選択肢を4段階で区分する案
選択肢の分け方も、できた/できなかったの二分ではなく、次の4段階で区分する案があります。
- 説明できる
- 解ける
- わかった
- わからないことがわかった
「わからないことがわかった」を失敗ではなく発見として扱うことで、理解が不十分だった回でも、振り返りそのものが後ろ向きな経験になりにくくなります。ただしこの区分の言葉づかい自体を直接検証した研究は確認できておらず、想起・比較という土台に比べると証拠水準は落ちます(仮説〜中)。
この4段階にはもう一つの意味があります。自分の理解状態を自分で判定させる作業は、メタ認知的モニタリングの練習そのものであり、振り返りを自己調整学習理論の内省段階(学習方略の修正・調整)に位置づけた際の橋渡しになりうる、と考えられます。これは仮説です。橋渡しが実際に起きるかどうかは、次に述べる条件に左右されます。
エビデンスと、その適用条件

想起そのものが記憶定着を助ける効果は、多くの実験で反復して確認されており、証拠水準は高いといえます。一方、選択肢を比較する工程が記憶をより強めるという整理は、想起そのものの効果ほど直接検証されておらず、中程度の水準にとどまります。
英国のEEF(Education Endowment Foundation)が公表しているレビュー(Muijs & Bokhove, 2020、証拠水準5段階中4=high)は、振り返りが「何となく振り返らせる」に留まりがちで、効果を出すには「どの方法を使ったか」「次に何を変えるか」を明示的に問う構造化が鍵になると指摘しています。
この知見は本技法にそのまま当てはまります。前段で触れたメタ認知的モニタリングへの橋渡しが機能するのは、「なぜそれを選んだか」の理由づけが、何をどう試みたから理解できたのかという学習方略そのものへの言及にまで及んだ場合に限られると考えられます。理由づけが「おもしろかったから」といった感想の範囲にとどまれば、記憶定着の効果は得られても、学習方略への接続は起きないと考えられます。
3つの選択肢から選ばせる枠組みは、構造化された問いかけの最低限の形を先に用意しているにすぎず、理由づけの中身までは保証しません。
留保
選ばれなかった選択肢まで、選ぶ過程で記憶が強化されるかどうかは断定できません。比較のために一度思い出す処理をしている分、ただ提示されるより定着に寄与しうる、という慎重な表現にとどめておきます。
「教えて考えさせる」との対比
「教えて考えさせる授業」は、基礎知識を教えたうえで検索練習を組み込む設計を積極的に取り入れます。ただしこの型を運用する側に学習科学の知識がなければ、振り返りは形だけの感想戦に終わります。振り返りの効果は書き方の工夫だけで決まるものではなく、その活動が何のためにあるのかを教える側がどれだけ把握しているか、という前提にも左右されます。
3つ提示して選ばせる型そのものは、その前提知識がなくても真似しやすい形に技法を落とし込んでいる点に価値があります。
まとめ

振り返りは、感想を書く時間ではなく、思い出し、比べ、理由づける時間として設計しなおすことができます。
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