フィードバックの3つの場面

教える技術

「子どもをよく見る」の実質は、気づいたことをそのまま短い言葉にして伝えることだと考えられます。つまり「見る」ことは、フィードバックを送ることと同じです。ところが実際の教室では、この「伝える」の部分だけが後回しになりがちです。授業の最後にまとめて「今日はよく頑張ったね」と言えば十分だ、と感じている場合もあるかもしれません。この記事では、フィードバックを「取り掛かり前」「取り組んでいる最中」「終わったとき」の3場面に区切り、それぞれの瞬間に何ができるかを整理します。個々の技術の詳しい理屈は、それぞれの記事に譲ります。

なぜ、場面で区切るのか

フィードバックは、行動が起きてからの時間差が大きくなるほど、強化の効果が急速に弱まることが、古典的な行動分析の研究で広く確認されています。時間が空くと、直前のどの行動が対象だったのかが不明瞭になり、無関係な行動が代わりに強化されてしまうこともあります。

つまり、授業の終わりにまとめて振り返るだけでは、どの行動に対する評価なのかが届きません。「その瞬間に」声をかける必要があるからこそ、どの瞬間に何を言えるのかを、あらかじめ場面ごとに持っておく意味があります。


大前提①:当たり前の行動に、その場で触れる

子どもの様子に気づいた瞬間、それを短い一言にして伝えます。「取り掛かっている」「進んでいる」という、当たり前に見える事実そのものに、まず気づいて伝えることが大切です。

これは改善フィードバックの下ごしらえとして必須なわけではなく、それ自体で完結した行為です。加えて、こうしたフィードバックを重ねておくことは、後で行動の改善を伝える場面でも効きやすくなる可能性があります(簡単に応じられる行動へのフィードバックを重ねると、その後の難しい要求にも応じやすくなるという「行動モメンタム理論」からの類推です。直接検証されたものではなく、あくまで経験則です)。

一方で、同じ密度のフィードバックを、いつまでも続ける必要はありません。毎回でなくても断続的に伝えるほうが、行動は長く持続するとされています。行動が定着してきたら、意図的に頻度を落としていきます。

狙う効果:当たり前の行動を強化し、習慣化を支えること。加えて、行動の持続性を高め、フィードバックをやめたときの消去を防ぐこと。
詳しくは「子どもをよく見る」の中身は、見ることではない(この記事全体の出発点にあたる、「見る」の再定義を扱っています)

大前提②:評価色の薄い言葉を選ぶ

「伝える」といっても、言葉の選び方は一つではありません。同じ場面でも、次の3段階で評価色が変わります。

段階言い方の例何を含むか評価色
形容詞評価「すごいね」教師の評価軸。評価者が上位に立つ濃い
事実確認「できたね」評価を含まない事実の言語化
意欲承認「取り掛かろうとしてるね」結果が出る前の状態の言語化薄い

評価色の薄い言葉ほど、内発的な意欲を損ないにくいとされています。

狙う効果:内発的な意欲を損なわずに、行動そのものを認識させること。
詳しくは褒めると認めるの境界線(大前提①で「伝える」と決めたあと、実際に何と言うかを選ぶ基準です)

この2つが大前提です。以下の3場面は、これを実際の授業の中でどう使うかの展開にあたります。

大前提:当たり前の行動に触れる(Q10)/評価色の薄い言葉を選ぶ(Q7)
①取り掛かり前|②取り組んでいる最中|③終わったとき

場面できること根拠となる記事
①取り掛かり前隣の子を認めるR4
②取り組んでいる最中中間層をモデルに拾うQ14
②取り組んでいる最中できる子のつまずきを認めるR7
②取り組んでいる最中評価より課題志向で伝えるD9
③終わったとき完了した行動に必ず触れる(原則のみ)

①取り掛かり前|隣の子を認める

まだ取り掛かれていない子に直接「やりなさい」と言うと、本人には言葉の処理・自分ごと化・判断・実行のすべてを一度にさせることになります。すでに取り掛かっている隣の子を認める声かけなら、対象児への指示そのものが存在しないため、負荷がほぼゼロに近づくと考えられます。

✗ 避けたい○ 置き換える
「早くやりなさい」「〇〇さん、もう書き始めてるね」

狙う効果:取り掛かりのハードルを下げ、行動そのものを引き出すこと。
詳しくは「静かにしなさい」ではなく、隣の子を認める(大前提の「認める」を、指示の代わりとして使う応用です)

②取り組んでいる最中

中間層をモデルに拾う

一番できる子ではなく、中間層の子が困難を乗り越える場面を、教師が言葉にして拾います。上位層の遂行はギャップが大きすぎてモデルとして機能しにくい一方、中間層は下位層から見て「自分と同等かわずかに優れている」存在であり、苦労を乗り越える過程を自然に見せられる立場にいます。

狙う効果:「自分にもできる」という感覚を強める。
詳しくは中間層がモデルになる ― 遠すぎる手本は届かない(誰を認めるか、対象の選び方を扱っています)

できる子のつまずきを認める

上位層の子にも、実際にはうまくいかない瞬間があります。ふだんの上位層の遂行は代理的効果が弱いのですが、困難を乗り越える瞬間だけは中間層との類似性が一時的に高まります。その瞬間を教師が認めることで、普段は届きにくい中間層への波及効果が期待できるという経験則です。

狙う効果:中間層への波及効果を狙う。
詳しくは一番できる子が、つまずいた日に(前項の理論を、上位層の例外的な場面に応用したものです)

評価より課題志向で伝える

フィードバックには、注意を課題そのものに向けさせる向きと、自分の能力評価に向けさせる向きの2つがあり、後者は逆効果になりやすいとされています。特に、すでに「分からない」状態にある子どもは、間違いの指摘が「自分はできないのか」という自己評価に向かいやすいと考えられます。

✗ 避けたい○ 置き換える
「間違っているよ」「ここが気になったんだけど」

狙う効果:自己評価への逃避を防ぎ、次の一手に注意を向けさせる。
詳しくは不正解を伝えることが、なぜ逆効果になるのか(ここまでの「認める」から一転、間違いを扱う場面の設計です)

③終わったとき|完了した行動に必ず触れる

完了した行動そのものに、短くても必ず言及します。取り組んでいる最中のフィードバックがどれだけ丁寧でも、終わり方が素通りだと、一連のやり取り全体の印象が薄れやすいと考えられます。特別な技術は要りません。「終わったら一言、必ず触れる」だけです。

狙う効果:一連のやり取り全体を良い形で締めくくり、次への構えを保つこと。


この技術が効くための共通条件

場面ごとの声かけが力を持つには、さらに前提となる条件があります。

条件内容
既習知識子どもがすでに何を知っているか
試行の間隔次に試す機会までに十分な間隔があるか

これらの条件が揃わなければ、苦労は定着効果を持たず消耗だけが残るとされています。詳しくは→望ましい困難の3条件と問題解決型の二重の不整合(3場面のどれにも共通してかかる、前提条件の話です。※この記事は公開予定です)。

まとめ

フィードバックの実質は「見て、伝える」ことです。ただし、いつ伝えるかによって届き方が変わります。取り掛かり・途中・終わりの3場面それぞれに、別の技術があります。加えて、時間が経ち行動が定着してきたら、頻度を落としていくことも大前提に含まれます。声かけの量を増やすことではなく、場面に応じて質を切り替える設計として捉え直せます。

証拠水準の内訳

根拠証拠水準
Q10(大前提①:当たり前の行動・定着後の間引き)(部分強化効果)
行動モメンタム理論(大前提①の補足)(理論そのもの)/仮説(フィードバック場面への類推)
Q7(大前提②:言葉の選び方)高〜中(アンダーマイニング効果)
R4(①取り掛かり前)(代理強化)/(教室場面への適用)
Q14(②途中期)中〜高(自己効力感理論)/仮説(優先順位づけ)
R7(②途中期)(代理強化の基盤)/仮説(中間層への波及)
D9(②途中期)(Feedback Intervention Theory)/仮説(問題解決型学習への当てはめ)
E7(共通条件)(Bjorkの3条件のうち既習知識・試行の間隔)
即時性の原則(なぜ場面で区切るのか)(遅延勾配・偶発的強化)

このうち経験則にとどまるのは、行動モメンタム理論のフィードバック場面への当てはめ、R7の「中間層への波及」、D9の「問題解決型学習への当てはめ」の3点です。それ以外の土台となる理論は、いずれも確立した知見です。なお、成長マインドセットは、このハブ全体を通じて根拠として一切使用していません。

関連記事一覧

大前提

①取り掛かり前

②取り組んでいる最中

共通条件

  • 望ましい困難の3条件と問題解決型の二重の不整合(公開予定)

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