教師が間違いを直接指摘するのと、子ども自身が間違いに気づくのとでは、その後の学び方が変わってきます。両者の差を生んでいるのは、教師の熱意ではなく、子どもの前に何を並べるかの設計です。正答例と誤答例を並べて見せる技法が、なぜ機能すると考えられるのか。認知負荷理論と行動分析学の両面から整理します。

現場の場面
計算ドリルの丸つけで、同じところで同じように間違えている子が数人います。一人ひとりに指摘して回ると時間がかかり、直った答えを写すだけで終わることもあります。次に同じ問題が出ても、また同じ間違いをする子がいます。
黒板に、正しい解き方の例と、よくある間違いの解き方の例を並べて書き、「こっちが正しくて、こっちが間違い。どこがどう違うかな」と聞くと、子どもたちは自分のノートと見比べながら、しばらく黙って考え始めます。
個別支援の場面でも、似たようなことがありました。三角形の作図で、コンパスの両端に針を刺し、弧が重なった点に向かって線を引くよう教えていたところ、ある子は片方は端に、もう片方は底辺の真ん中に刺していました。「端と端でやるんだよ」と言葉で伝えるだけでは、なかなか直りませんでした。
構造の解説
支援の仕方には段階があります。①教師が間違いを直接指摘する。②正しい手本だけを見せ、自分の解き方との違いを比較させる。③正答例と誤答例を「これが正しい」「これが間違い」とラベル付きで並べ、どこがどう違うか、どうすれば正しくなるかを考えさせる。①は修正はできても、子ども自身が誤りを発見する経験にはなりません。

③でどちらが正しいかを先に伝えるのは、正誤の判定にかかる負荷を減らし、本来頭の中でやるべき「正しい考え」との比較そのものを黒板の上に外化するためだと考えられます。判定と比較の負荷を分けることで、子どもは違いを見ることに認知資源を使えると考えられます。これは認知負荷理論の応用であり、確立した理論(高)からの推論(中)です。
行動分析学の枠組みでは、教師は正答例と誤答例、2つの弁別刺激を用意していると整理できます。この対比により子どもは「ここが違う」と反応しやすくなり、教師がそれを認めたとき強化されるのは「正解を書く行動」ではなく「誤りを見つける行動」だと考えられます。
「メタ認知ができていない」と捉えるのは、実は正確ではないかもしれません。「一人でメタ認知を行うには負荷が高すぎる状態」と捉えるほうが構造に近く、メタ認知は「ある・ない」の二択ではなく、支援があればできる状態から一人でもできる状態へと続く連続体です。この技法は、その連続体の上で支援を徐々に外していく足場かけの一つとして位置づけられます。
この技法は、誤りの修正だけでなく、すでに正しく解けるようになった後の理解進化フェーズでも使えます。習得済みの解き方に、あえてよくある誤答例を重ねることで、手順だけでなく「なぜその手順が正しいのか」への理解を深められると考えられます。誤答例との比較は概念的な理解でより効果が大きいとの報告がある一方、先行知識の要否については研究間で結果が一致していません。
個別支援の場面では、もう一つの応用があります。その子自身の誤った解き方を、教師が再現して見せる方法です。教師が子どもの発言や考えを言い換えて返すリヴォイシングという技法は算数教育の談話研究で確立していますが、発言や推論の言い換えが中心で、解き方や手順の再現への応用は理論的に妥当だと考えられる段階にとどまります。
先ほどのコンパスの場面でも、この応用を使いました。ただし、個別支援でどこまで全体を見せ直すか、どこから本人の誤答と正答の比較に進むかの判断は、Q29(なぜ、部分ではなく全体を見せ直すのか(支援の方法))が扱う技法と重なります。ここでは、正誤を並べる行為自体がABAの弁別刺激として機能する、という理論面に絞ります。
この応用には条件があります。「これで合ってる?」と本人に確認を委ねる中立的なトーンが前提で、誤ると「指摘し直された」体験になり、自分の考えを否定されたと受け止められるリスクがあります。「ここまではこう考えていたんだね、合ってる?」という形を崩さないことが必須です。
なお、誤答を教材にする点で既出の批判と混同されやすいですが、そちらが問題視するのは特定の子の誤答を教材化して生じる人間関係の固定化です。ここで扱うのは事前に用意した匿名の誤答例であり、この固定化リスクは生じません。
エビデンス
worked example効果(解答例を見せて学ぶ効果)と、それに誤答例を加えた誤答例学習(erroneous example)の効果は、近年の教育心理学の研究でも支持されており、証拠水準は中〜高です。行動分析学における弁別刺激という説明枠組みも確立した知見です。正答例と誤答例を並べて比較させるという技法そのものについても、小学4・5年生を対象にした小数の学習で、正答例のみを学んだ場合より手続き的知識・概念的知識の両方が伸びたという実験結果があります(Durkin & Rittle-Johnson, 2012)。ただし対象は算数の一領域に限られ、日本の教室での再現は確認できていません。

留保
個別支援でその子の解き方を再現して見せる応用は、記事の他の部分より証拠水準が一段低く、仮説〜中にとどまります。トーンの条件が崩れたときのリスクも本文で触れた通りで、万能の技法としては扱えません。
「教えて考えさせる」との対比
問題解決型学習の枠組みでも、誤答例を教材に使うこと自体は可能です。ただし、正答例をあらかじめ用意して並べる設計は、自力解決の過程で「まだ正解を見せない」という考え方と衝突する場面があります。教えて考えさせる授業は比較の外化を早い段階で行える分、この技法を組み込みやすいと考えられます。
まとめ
間違いを直すより、間違いを見つけさせるほうが、後まで残る学びになりやすいと考えられます。

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worked exampleの発展形として、目的地を先に見せる技術(Q4)や、支援を徐々に外す考え方(I4)とつながっています。※この記事は近日公開予定です。個別支援で全体を見せ直すか部分を扱うかの判断は、別記事(Q29なぜ、部分ではなく全体を見せ直すのか(支援の方法))で詳しく扱っています。

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