「静かにしなさい」ではなく、隣の子を認める

教育

前回は、いつもできる子の「うまくいかない瞬間」が周りに届きうる、という話を扱いました。今回は視点を変えます。困っている子に「静かにして」と言うほど、その子はますます落ち着かなくなることがあります。指示そのものが、その子にとっての負担になっているからです。では、どう声をかければ届くのか。声のかけ先を変えるだけで、対象の子への負担をほぼゼロにできる技術を扱います(4日間連続投稿の3日目)。

現場の場面

指示が入りにくい子に、教師が「静かにしてね」と声をかけます。一度では効きません。少し経ってまた同じ声かけをします。三度目、四度目になると、声のトーンも少し強くなります。その子の様子は、落ち着くどころかそわそわが増え、手遊びが始まり、椅子がきしみ始めます。声をかければかけるほど、逆方向に進んでいくように見える場面です。

教師の側からすると、何もしないわけにはいきません。放っておけば周りへの影響も気になります。かといって声をかけるほど悪化するのなら、選べる手立てがないように感じられます。教師は間違ったことをしているわけではありません。ただ、直接の声かけという手段そのものに、負担がかかっているのかもしれません。

構造の解説

直接の指示には、実はいくつもの作業が同時に含まれています。「静かにして」という一言を聞いた子は、その言葉を理解し、自分に向けられたものだと受け止め、今何をすべきかを判断し、今の行動を止め、新しい行動に切り替える、という一連の作業をその場でこなす必要があります。すでに余裕がない状態の子どもにとって、この作業量そのものが重荷になります。声をかければかけるほど負担が増え、かえって行動が崩れていくのは、この作業量が積み重なっているからだと考えられます。

ここで使える代替案が、その子ではなく、近くにいる別の子(余力のある子)の望ましい行動を、声に出して認めることです。「〇〇さん、もう座って待てているね」。この声かけは、対象の子に向けられた指示ではありません。何かを求められてもいないので、先ほどの一連の作業そのものが発生しません。対象の子にとっての負担は、ほぼゼロに近くなります。

それでいて効果が消えるわけではありません。バンデューラの観察学習理論では、他者が望ましい行動を取り、それが認められる場面を見ることで、自分もその行動を取ろうとする働きが確認されています。これは代理強化と呼ばれ、理論としては確立しています。認められている姿を見た子どもは、自分も同じ行動を取れば同じように認められる、と間接的に学びます。

ただし、教室で「望ましい行動を言葉で認める」という具体的な場面に絞って、この効果を直接検証した研究は、確認できていません。理論は確立していても、この使い方そのものはまだ仮説の段階にとどまります。

エビデンス

代理強化・観察学習の理論そのものは、バンデューラの一連の研究によって確立されており、証拠水準としては高に位置づけられます。他者への強化が与えられる場面を見ることで、観察者自身の行動が変化することは、繰り返し確認されてきました。対象の子に直接何かをさせず、周囲の環境を通じて間接的に働きかける発想自体も、行動分析学の中で広く使われてきた考え方です。

一方で「教室において、望ましい行動を言葉で認める」という具体的な場面に限定した検証は、確認できていません。理論的には効果が期待できますが、この使い方そのものは中〜仮説の水準にとどまるものとして読んでください。効果の大きさや、どんな子どもに、どの程度届くのかは、まだ分かっていない部分が多く残っています。

留保

これは、気づかれないよう誘導する裏技ではありません。個別に支援が必要な子への直接的な関わりを、代替する技法でもありません。声のかけ先を変えるだけで負担がほぼゼロに近い技術だからこそ、個別支援の手前でいつでも使える、補助的な一手として位置づけています。この子には効かなかった、という場面も当然出てきます。

教えて考えさせる授業との対比

教えて考えさせる授業(OKJ)では、発言は教師の指名を経て行われます。誰の発言を全体に取り上げるかを教師が選べる構造になっているため、望ましい行動を認める場面そのものを、意図的に作りやすい特徴があります。挙手した子を順に当てるだけでなく、静かに待てている子、粘り強く考えている子を教師が見つけて拾い上げることができる構造だと言えます。

問題解決型学習のように子ども同士のやり取りが中心の授業形式では、誰の行動をいつ認めるかを教師がコントロールする余地は、相対的に小さくなります。

まとめ

指示が届きにくいときは、その子に言葉を重ねるのではなく、近くの子を認めることが、遠回りに見えて届く一手になります。声のかけ先を変えるだけで、対象の子への負担はほぼゼロに近づきます。

次回予告

声のかけ先を変えることで、対象の子への負担をゼロに近づけられることが見えてきました。次回は、困っている子に直接手を入れなくても助けられる、もう一つの方法を扱います(4日間連続投稿の4日目)。


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