なぜ、部分ではなく全体を見せ直すのか(支援の方法)

教える技術

個別指導の場面。机間指導中に困っている子を見つけ、「ここが分かっていないんだな」と判断して、その部分だけを取り出して説明する――そんな支援をしていませんか。効率はいい。でも、この効率の良さが、子ども自身が「自分はどこで分からなくなったのか」を見つける経験を奪っているかもしれません。今日は、類題を解きながら説明することで、解き方の全体をもう一度見せるという技術と、その狙いを考えます。

現場の場面

授業中、机間指導をしていると、手が止まっている子どもがいます。近づいて「困ってる?」と聞くと、うなずきます。ノートを見て「あ、ここが分かっていないんだな」と判断し、その部分だけを取り出して、聞き直したり、かみ砕いて説明したりします。子どもは「分かった」という顔で作業に戻り、教師は次の子のところへ向かいます。

よし、これで大丈夫だろう。そう思いながら次の子のところへ向かい、また同じように「ここが分かっていないんだな」を見つけては、その部分だけを説明していきます。一巡り終える頃には、ちゃんと支援できたという手応えがあります。

ところが後日、宿題や次の類似問題を見返すと、あの子がまた同じところでつまずいています。あれだけ丁寧に、しかも早く対応したはずなのに、なぜでしょうか。

構造の解説

一般的な机間指導型の個別支援は、教師が弱点を判断し、間違っている部分だけを抜き出して説明する形を取ります。効率的で、目の前の一問はその場で解けます。しかしこの形では、一連の流れのどこでずれたのかを子ども自身が振り返る機会がありません。メタ認知の経験がないまま、一問だけが解決して終わります。

もう一つのやり方があります。①まず、間違えた部分を取り出すのではなく、類題を教師が最初から最後まで解きながら説明します。多くの子どもは、正しい解き方を通して見せられるだけで、自分がどこでずれていたかに気づきます。

②それでも難しい子には、その子自身が間違えた解き方と、類題を正しく解いたものを両方並べ、「どう違った?」と聞きます。正しい答えや間違いの理由を教師が説明するのではなく、問いだけを投げます。ここで答えまで説明すると、自分で気づく経験そのものが失われるからです。すでに説明を受け、自分でも一度解いた準備があるため、問われれば気づく下地はできていると考えられます。

①②とも、新しい解き方を発見させているわけではありません。②で並べる2つも、片方はすでに正しく解かれたもの、もう片方は子どもがすでにやったことです。全体を通して見せるのは、子どもが最終的に一人でできるようになる必要があるからです。

この技術がねらうのは二重の目的です。一問を理解してもらう短期的な目標と、自分の理解を自分で点検する力――学習方略・メタ認知を鍛える長期的な目標。むしろ後者こそが本命だと考えられます。

エビデンス

この技術は、性質の異なる2つの知見に支えられています。

ひとつは、解答例(worked example)をはじめから終わりまで通して見せることが、部分的な誘導よりも初学者の学習に効果的だという知見です。認知負荷理論の中でも数多くのRCTで再現されている、確立した知見です。①の土台はこの効果に支えられています。

もうひとつは、自分の理解状態を把握し次にどう対処するかを判断する働き――メタ認知のモニタリングです。Flavellや Nelson & Narensらの枠組みで整理されており、構成概念自体は確立しています。ただし、この技術がその力そのものを育てるという因果関係を直接検証した研究は見当たりません。ここは理論的な接続にとどまります。なお②で正誤を並べて問う工程は、解き方を比較させる学習効果(Rittle-Johnson & Star)に近い構造ですが、初学者への適用は未検証で、これも仮説です。

留保

これは仮説ですが、解き方の全体を見せ直すことが自己診断力を育てるかは、まだ検証されていません。部分抜き出し型も誤りではなく、即効性では優れています。

なお、誤答例を見せる技術(Q22)とは狙いが異なります。Q22は提示物の中身、この技術は支援の範囲そのものを扱う点で軸が違い、併用できます。

「教えて考えさせる」との対比

教えて考えさせる授業は、説明のあとに理解確認のフェーズを標準装備しています。この技術は、その理解確認で個別のつまずきが見つかった場面になじみます。弱点だけを切り出すのではなく、解き方の全体をもう一度通して見せ、子ども自身に「どこでずれていたか」を発見させる。教師が答えを渡すのではなく、答えを探す経験そのものを渡す発想です。

また教えて考えさせるでは、子どもが分からなかった場合、その責任をまず教師の説明のほうに置きます。全体をもう一度通して見せ直すという行為は、その引き受け方を具体的な手順に落としたものだと考えられます。

まとめ

部分を直して渡すか、解き方の全体を見せ直して自分で気づかせるか。同じ「もう一度教える」でも、子どもが持ち帰るものは違います。どちらをねらうのかを意識して選べると、個別支援の引き出しが一つ増えます。

次回予告・関連記事

この技術は、Q2「重要事項は二度説明する」で触れた「2回とも全体向けで説明する」という設計判断の背景にある考え方を、掘り下げたものです。

また、「何を見せるか」という別の軸からアプローチする技術はQ22で、この技術がつながる「考える力」の定義についてはF3で、学習方略というメタ認知の別の側面はL1で扱う予定です(いずれも近日公開予定です)。

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