『スモールステップ』は、もともと二人組だった ― 消えた片割れ

教育

「スモールステップで進める」と言うとき、思い浮かべるのはたいてい、課題を細かく刻んで難易度を下げることではないでしょうか。実はこの言葉、生まれたときにはもう一つの技術と対で使われていました。今、その片割れは通常学級の語彙から静かに姿を消しています。

現場の場面

プリントはよく「スモールステップ」で作られています。①→②→③と難易度が少しずつ上がる設計です。では、ヒントの量はどうでしょうか。最初のプリントにも最後のプリントにも、同じだけの補助線や例題がついていないでしょうか。子どもが慣れてきても、支援そのものを意図的に減らしていく設計は、意外と組み込まれていません。「刻む」ほうは当たり前に実践されているのに、「支援を減らす」ほうは、誰も教わっていないかのように抜け落ちています。

構造の解説

スキナーのプログラム学習における「スモール・ステップの原理」は、学習教材を小刻みにして連続的に提示することを指します。そしてその直後には、学習の初期には手がかりを与え、進行とともにそれを減らしていく技法として「キューイング(cueing)とフェイディング(fading)」が並記されていました(精選版日本国語大辞典・プログラム学習の項)。つまり「内容を刻む」と「支援を減らす」は、原典の段階では隣り合う別々の技法だったと考えられます。

なお、スキナーの名前や行動主義という思想への評価と、そこで整理された技法そのものが使えるかどうかは、別の問題です。ここで扱うのは後者だけです。

ところが、現在日本語圏で流通する「プログラム学習の5原則」(①スモールステップ②即時確認③積極的反応④自己ペース⑤学習者検証)に、キューイング・フェイディングは含まれていません(熊本大学教授システム学専攻の教材ほか、複数の独立した資料で共通)。一般向けの解説記事も、目標を細分化し段階的に達成するという「難易度の刻み方」だけで説明され、支援量を操作するという発想はほぼ現れません。

ただし、フェイディングという言葉自体が消えたわけではありません。プロンプトフェイディング(ヒントを計画的に減らしていく技術)として、応用行動分析(ABA)・療育・特別支援の領域では今も標準的な用語として使われています。つまり実態は「消滅」ではなく、領域の分離と考えられます。「内容を刻む」側は通常学級の一般的な語彙として広く定着し、「支援を減らす」側は療育・特別支援という専門領域の中に位置づけられました。これは誰かが意図して起こしたことではなく、用語がどの領域で使われ続けたかという流通の結果です。結果として、通常学級の授業設計を語る言葉の中には、支援量を操作するという発想が事実上残らなかった、ということになります。

なお、確立した概念の半分だけが定着するという現象は、これが唯一の例ではありません。ユニバーサルデザイン(UDL)から”L”が抜け落ちること、アクティブラーニングが「話し合い」だけに収縮することも、同じ形をしています。

エビデンス

根拠は3つの独立した確認に基づきます。①原典での併記(精選版日本国語大辞典)、②日本語圏の定型5原則リストにフェイディングが含まれないこと(熊本大学教材ほか複数)、③プロンプトフェイディングがABA・療育領域の標準用語として存在すること。いずれも複数の独立した資料で確認できており、証拠水準は「中」です。「原典で併記されていた」「今のリストにない」「別の領域で生きている」という3つの状況証拠が揃っているという意味であり、実験によって直接検証された知見(高水準)とは区別して扱います。

留保

なぜこの分離が起きたのかについて、「自力で考えさせるという設計が前提とされてきたため、支援を減らす技術が組み込まれる場所を持たなかった」という説明が考えられますが、これは仮説です。1960年代前後の日本の初等教育がどの程度この設計を前提としていたかを裏付ける教育史的な資料は、検索の範囲では確認できていません。「分離が起きているという事実」と「その理由の説明」は、分けて読んでいただければと思います。

「教えて考えさせる」との対比

支援量を意図的に操作する具体的な方法は、責任移行モデル(I3で扱った、教師が担う責任を段階的に子どもへ渡していく設計)にすでに骨格があります。同じ難易度の問題であっても、一問目は一緒に解き、二問目は解き方の確認だけをして取り組ませ、三問目は自分で解く。問題そのものの難しさを変えなくても、支援の量という軸で調整するという設計は可能です。ただし、この具体的な区切り方自体を直接検証した研究は確認できていないため、あくまで応用の一例として読んでください。詳しい技法はQ22で扱う予定です。

そして、この語彙の不在は、教えて考えさせる授業(OKJ)の側にも同じように及びます。理解確認フェーズ・理解深化フェーズという構造を持つこと自体が、フェイディングを自動的に含んでいるわけではありません。支援を最初は手厚く与え、習熟に応じて計画的に減らしていくという設計は、OKJであっても意識的に組み込まなければ実現しません。使える言葉がなければ、その設計は誰の授業でも抜け落ちます。

まとめ

使える技術が半分しか輸入されなかったのではありません。半分が、別の場所にしまわれていたのです。しまわれた場所が分かれば、取りに行くことができます。

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