
前回のQ10「子どもを見るとは何か ― 弱いフィードバックの効き目」では、「子どもを見る」とは行動にフィードバックを返すことだと捉え直し、その反応の質を扱いました。今回は同じフィードバックを、量の軸で見ます。良い行動に返る反応が少ない教室では、子どもが注目を得られる手段そのものが限られていきます。応用行動分析の知見をもとに、その構造と、今日から自分で確かめられる手順までを整理します。
その日、名前を呼んだのは誰だったか
朝の会。連絡帳を出して静かに待っている子が20人以上います。教師の最初の声が飛ぶのは、後ろで椅子を鳴らしている子に向けてです。「何やってるの」。教室が一瞬静かになり、また進みます。3時間目、同じ子がまた名前を呼ばれます。
放課後にその日の言葉を思い返すと、名前を呼んだ回数の多い順に数人の顔が並びます。静かに待っていた子の名前は、ほとんど出てきません。
同じような朝が数週間続くと、その子だけでなく大きな声を出す子、列を乱す子も少しずつ増えていきました。
これは指導が足りなかったからではありません。30人を1人で見ながら45分を回せば、反応は自然に、対応が必要な場所へ集まります。問題はその先で起きる構造の方にあります。
なぜ、叱責が行動を増やすことがあるのか

応用行動分析(ABA)は、問題行動を性格ではなく「何によって維持されているか」という機能で捉えます。機能分析の研究(Iwata et al., 1982/1994)は、行動を維持する要因を、注目の獲得・要求からの逃避・物や活動の獲得・感覚刺激の4つに整理しています。
このうち注目で維持されている行動では、返る注目が肯定的(称賛)か否定的(叱責)かを問わず、注目が得られること自体が強化として働きます。叱責が結果的に行動を増やすことがあるのは、この機序によります。ここまでは証拠水準「高」として扱えます。
一方、「教室のフィードバック総量が問題行動の量を決める」という言い方は、この知見を教室全体に広げた応用と考えられます。注目は4機能の1つで、逃避や感覚刺激が主要因なら、良い行動への反応を増やしても直接には効きません。だからこそ、対策を考える前に、その行動が本当に注目で維持されているかを見極める必要があります。
「では叱ってはいけないのか」への答え
最もありがちな受け取り方ですが、そうではありません。ここで問題にしているのは叱責の有無ではなく、良い行動への反応が相対的に少ないという比率です。良い行動にも反応が返る教室では、叱責は数ある反応のうちの1つになり、注目を得る手段としての価値が下がります。むしろ、叱責が本来の意味で届くようにするための土台の話だと考えてください。
反応の総量を、引き算ではなく足し算で動かす
やることは単純です。悪い行動への反応を無理に減らす必要はなく、良い行動への反応を、今より少しだけ増やす。それだけです。
なぜこれで変わるのか。理由は、ここまでの話の裏返しです。子どもが行動を通じて求めているのは注目そのものであり、それが得られる経路さえあれば、わざわざ叱られる行動を選ぶ理由は減っていきます。良い行動への反応を増やすとは、注目を得るための経路をもう一つ用意することです。叱られること以外にも先生の目に留まる方法があると分かれば、そちらを選ぶ子どもが増えていきます。ここは直接検証された知見ではなく、ここまでのエビデンスから導ける推論です。また、これは注目で維持されている行動に効く話です。その子の行動が実際に何によって続いているのかを、まず少し観察してみてください。

反応そのものは、大きくある必要はありません。「出せたね」「最後まで聞いてたね」。当たり前の行動への短いひと言で十分です。この短く断続的な反応でよいことはQ10「子どもを見るとは何か ― 弱いフィードバックの効き目」で、評価を含まない事実確認の形はQ7で、それぞれ扱っています。時間が空くほど、その反応がどの行動に向けられたものか伝わりにくくなるため、気づいたその場で返すことも大切です。この即時性についてはI2で扱います。
迷ったら、今日ひと言も個別に返していない子から。総量が少ない教室ほど、少ない総量は数人に偏りがちです。この偏りが学級全体の秩序と絡んでいく構造は、R1で扱います。
明日から使えるまとめ

- 特別な手順がなくても、大事なのは良い行動にしっかり反応すること
- 悪い行動への反応を無理に減らす必要はない。まずは良い行動への反応を増やすことが先
- 増やす先は当たり前の行動。短く、直後に、今日ひと言も返していない子から
次回予告
ここまでは「反応の総量」の話でした。では、すでに起きている問題行動には、注意すれば直るのでしょうか。次回のQ12「なぜ『注意』だけでは行動が変わらないのか」では、注意という手段が効きにくくなる瞬間と、その神経科学的な理由を扱います。対策の本体はQ12・Q13に続きます。
関連記事:Q10「子どもを見るとは何か ― 弱いフィードバックの効き目」/Q7「「すごいね」の主語は誰か ― 褒めると認めるの境界線」/Q20「子どもの方が権力を持っている ― だから教える技術が要る」

コメント