これまでのQ系(Q3Iメッセージには2段階ある ― 内容指定型と状態開示型・Q7「すごいね」の主語は誰か ― 褒めると認めるの境界線)では「声のかけ方」を扱いました。今回からは「授業の組み立て方」に移ります。
東京駅に行く準備と、最寄り駅に行く準備は違います。子どもも同じで、自分がどこまで行くのかを知って初めて、そこに向けた準備ができます。今回は、その到達点を最初に見せてしまう技術です。子どもがつまずくタイミングを、偶然ではなく設計で決められるようになります。

よくある指導場面
黒板の例題は、繰り上がりのない筆算。「できた人?」と聞けば、ほとんどの手が挙がります。ところが練習問題に入った途端、教室の何人かの鉛筆が止まる。プリントの3問目に、繰り上がりのある問題が混ざっているからです。
得意な子はその場で見当をつけて進みますが、苦手な子は止まったままです。例題で一度も見ていない場面に、練習問題で初めて出会っているのだから当然とも言えます。この1時間でどこまでできるようになってほしいのか。それを最初に共有していなかった、設計の問題だと考えられます。
この技法は、批判編C4「見通しの形骸化」への回答にあたります。C4で指摘したのは、「めあて→話し合い→まとめ」という手順を示しても、子どもの本当の不安——今日の問題が自分に解けるのか——は解消されない、という点でした。ここで見せるのは手順ではなく、内容そのものです。
技法の説明

手順は4つ。単元の最初にも、1時間の冒頭にも使えます。ここでは1時間で完結させる形で説明します。
①最終形を先に提示する
その1時間で最終的に解けてほしい問題を、いちばん最初に黒板へ出します。繰り上がりのある筆算を教える回なら、繰り上がりのある問題そのものです。
②教師が解いてみせる
子どもには解かせません。教師が実演します。「ここで10がたまったから、上の位に1つ送る」と、つまずきが起きる箇所こそ声に出しながら書いていきます。
③到達点を言葉にする
「今日は、この繰り上がりのある計算までできるようになります」と伝えます。子どもの不安の正体は、この先どこまで難しくなるか分からないことです。ここを埋めます。
④易しい問題を、最終形の一部として渡す
続く易しい問題は「基礎練習」ではなく、「さっきの計算の、繰り上がりが起きない場合」として出します。別物ではなく、同じ手順から一工程が抜けただけだと分かる形にします。
同じ考え方は計算以外にも使えます。対称の学習なら、方眼紙を使わずに「対応する点を結んだ線が、対称の軸と垂直に交わる」という関係そのものを先に説明し、これが分かればマス目を数える必要はない、と到達点を示します。方眼紙のある問題は、その関係を目で確かめやすくした入り口として、あとから位置づけます。方眼紙が子どもの注意をどこへ向けるかは、D6「教材は中立ではない」で扱いました。
エビデンス
根拠はAusubelの先行オーガナイザーです。全体の構造と最終到達点を先に示すと、個々の知識をどこに置けばよいかが分かりやすくなる、という効果を指します。
ただし効果の大きさは正直に見ておく必要があります。効果の存在自体は複数のメタ分析で確認されている一方、Hattieの統合ではd=0.41程度。教育介入の平均的な目安とされる0.40をわずかに超える水準です。劇的に変わる技術ではなく、毎時間積み重ねて効いてくる技術と捉えるのが妥当でしょう。
守破離で言えば、型(守)を渡す前に、その型がどこへ向かうものかを見せる工程にあたります。

反論の先回り
「いちばん難しい問題を最初に見せたら、萎縮するのでは」。当然出てくる懸念です。
まず、子どもに解かせていません。そのうえで「今は全部分からなくて大丈夫、今日たどり着く場所を見るだけです」と一言添えると、負荷はさらに下がるはずです。分からない場面を見る不安が完全に消えるわけではありませんが、「今は分からなくていい」という許可があるかどうかで、受け取り方は変わります。
なお、I4で問題にしたのは支援の有無という軸でした。今回動かしているのは難易度という別の軸です。教師が支援付きで見せている以上、両者は矛盾しません。
明日から使えるまとめ

授業の最初に、いちばん難しい問題を教師が解いてみせ、「今日はここまで行きます」と伝える。あとの易しい問題は、その一部として渡す。それだけで、子どもがどこでつまずくかを、教師が事前に決められるようになります。
次回はQ2「重要事項は二度説明する」を扱います。全体への説明と、つまずきが予想される子への再説明を、意図的に分ける技術です。

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