子どもはなぜ先生の話を聞くのか ― 人間関係のうち、行動に効く部分

学級経営

「あ、やべ、あの先生が来た。静かにしなきゃ」

小さい頃、そう思ったことはないでしょうか。これも人間関係ではないでしょうか。人間関係は、親しさだけでなく、厳しさでも成立します。厳しさを勧める話でも、責める話でもありません。では、この人間関係とは何なのか。行動の面から見てみます。

手順は別の記事で書きました。この記事は、なぜ効くのかの説明に徹します。

この記事の範囲

扱うのは、人間関係のうち行動に効く部分、つまり「この先生は何に反応するか」を子どもが学んでいる状態です。次の3つに限ります。

  1. つながりを感じる欲求は別の軸です(Iメッセージ ― なぜ「提案」のほうが動くのかの「Iメッセージが担うのは3つの欲求のうち1つ」)。予測できるだけで温かさがなくても関係が成り立つのか、両者がどう組み合わさるのかは分かりません。
  2. その人がいる場面で行動が出る部分までです。いない場面でも続くか(定着)は扱いません。
  3. 反応の側だけです。聞くかどうかは、話の中身(分かるか、興味が持てるか)や学級の規範にも左右されます。この記事が示すのは、「なぜ聞くのか」の答えの一部です。

証拠の強さは【高】【中】【仮説】【分からない】で示します。

子どもは「この先生は何に反応するか」を学ぶ

先生は、何をすれば何が返ってくるかを示す手がかり(弁別刺激)として働き得ます【高】。子どもは繰り返しの経験からそれを学びます(詳しくは荒れた学級は、誰から立て直すのか ― 順序と時期を行動の機序から設計するの「なぜ、声かけが要らなくなるのか」)。出典(Redd & Birnbrauer, 1969)の対象は知的障害のある子どもで、通常学級への一般化は【仮説】です。

戦略的フィードバックでいえば、認める反応を一貫して返すことが、この学習の材料になります。

手がかりが何を予告するかは別の話です。「注意が返る」と学んでも「認める反応が返る」と学んでも、その先生がいる場面で行動は出ます【概念は高/教室での直接の検証は未確認】。注目で維持されている行動では、叱責も注目として働き得ます。この点は、同じブログの別の記事「叱責が唯一の反応になったとき、教室で何が起きるか」で詳しく扱っています。課題からの逃避などで維持されている行動には当てはまりません(約束させる指導はなぜ失敗するのかの「この方法にも機能しない条件がある」)。何に反応するかは、その先生が何を大事にしているかの手がかりにもなる、というのが私の見方です【仮説】。

教室で確認されていること【中】

いずれも1960年代の米国の小規模な事例研究で、私が確認したのは抄録の範囲です。

  • 承認を引っ込めると妨害行動が増え、否定的な反応を3倍にすると、特に身体の動きや雑音の類が増えました(Thomas, Becker, & Armstrong, 1968)。
  • ルールを示すだけでは効果が小さく、望ましい行動の承認と軽微な問題行動への反応を控えることの組み合わせが効果的でした(Madsen, Becker, & Thomas, 1968。児童3名)。
  • 勉強への取り組みに注目を返すと取り組みが増え、条件を逆にすると下がりました(Hall, Lund, & Jackson, 1968。児童6名)。

Hallらの研究が扱ったのは「勉強に取り組む行動」です。「話を聞く」行動を直接調べた研究は確認できていないので、「聞く」への適用は応用です。

黄金の三日間を読み直す【仮説】

最初、子どもには「この先生は何に反応するか」がまだ分かりません。様子をうかがい、反応が返った行動が増えます。望ましい行動でも、問題行動でもです。三日間は良い行動が出やすく、何に反応するかを最初から一貫して示しやすい時期ではないか。学級経営は性格ではなく戦略であるで、三日間は行動形成の好機でもあると書いた部分の、仕組みの側の説明です。ただし、これを直接確かめた研究は確認できていません。新しい環境や前年度までの習慣でも説明できます。三日間で決まる、途中からでは遅い、という意味でもありません。

私は4年目以降、特に最初の3日間に肯定的な声かけをたくさん行い、その後の1年もそれを基準にできたと感じています。経験や学級の違いと分けられず、効果の証明ではありません。実際の声かけの一例です。「いいじゃん、それでいい、それが大事だ。今それができていることが、この先あなたたちのためになるから、続けていけたらいいね、と先生は思うよ」。評価語を含み、小さく返す ― 評価しない一言が、なぜ届くのかの推奨(評価語を足さない)とは違うので、推奨の型ではなく私の実例です。

うまくいかなかった年もあります。3年目、特別支援学級で担当が1人のとき、年度の途中から取り入れましたが、効果を実感できませんでした。一対一で、周りの子や学級の環境を使えない形態だった、というところまでしか言えません。

私の実践から

前年度にしんどかった学級を何度か引き継ぎ、前年度に問題行動のあった子たちの問題行動が減ったと、私は感じています。机の中でごそごそする、手遊びをするといった軽微な行動への反応は、ある程度控えました。その子が頑張ろうとしている一瞬を見逃さずに声をかけ、全体に広げました。友達とのトラブルでは、特定の子だけに直接指導して謝らせる形にはしませんでした。ねらいは、周りの子から見た、その子の見え方を変えることです。

先に挙げた叱責の記事は、悪い行動への反応を無理に減らす必要はない、という立場です。ここに書いたのはそれと対立する方法ではなく、軽微な行動に限った私の実践です。安全に関わる行動は対象外です。反応を控えることと、望ましい行動を認めることの組み合わせは、Madsenらの研究と同じ形です【中】。ただし、研究が私の実践の効果を証明するわけではありません。周りの見え方が変わるとその子の行動が改善する、という点を直接確かめた研究は確認できていません【仮説】。

専科として、2学期から複式学級(1・2年)の体育を主導しています。約1か月で、担任から、話を聞く姿勢が良くなったという声がありました。他の教科でも「あの先生が来た、気をつけよう」という様子が見られます。ただ、期間が短く、主導する人が変わったことなどと分けられず、担任の声も1件の非公式な報告です。

廊下では「右側を歩いてるね」と声をかけます。私が見えると、子どもは「あ、そうだった」という様子で右側に移ります。目が合うだけで切り替わることもあります。私がいない場面では、左側を歩いていることもあります。私がいる場面で行動が出て、いない場面では保たれていない例です。ルールを知っていても、手がかりがなければ行動に移らない。約束させる指導はなぜ失敗するのかと同じ構造です。

どれも1人の教師の観察で、子どもの成長などほかの要因と分けられません。また、子どもの姿勢が「認めてもらえる期待」によるのか、「注意されないための警戒」によるのかは、観察だけでは区別できません。

反応を変えるときの留保

  • 反応を控えてよいのは、軽微な行動に限ります。危険な行動、他害、他の子への影響が大きい行動は対象外です。
  • 反応で増えるのは、注目で維持されている行動に限られます。
  • 安全や授業の進行のために反応せざるを得ない場面は、必ずあります。荒れを「先生が悪い行動に反応したせい」と読まないでください。
  • 反応を引っ込めると一時的に悪化することがありますが、必ずではなく、望ましい行動への反応を同時に増やすと起きにくいとされます(Lerman & Iwata, 1995)。臨床データで、教室全体への適用は【仮説】です。
  • 私は、荒れた学級を年度の途中から立て直した経験がありません。途中で反応を変えて行動が変わった研究はあります(Madsen et al., 1968【中】)が、必ず改善するとは言えません。途中からが難しい理由も、続けるか戻すかの判断基準も、【分からない】ままです。

結び:きっかけとしての存在になる

できることは、認める声かけを増やすこと。まず、良い行動を引き出すきっかけとしての存在になること。それが、人間関係のうち、行動に効く部分です。

私自身は、軽微な行動への反応を減らしたいと考えています。ただ、それよりも大事にしているのは、認める反応を増やすことです。反応を控えるかどうかより、認める反応が増えているかどうかを先に見てください。

認める声かけを選ぶ理由は3つです。1つ目に、してほしい行動を本人にも周りの子にも示せます(代理強化【高】。「良い行動」の選び方の記事で扱いました)。2つ目に、注意ばかりだと、先生や自分への否定的な印象(否定的なラベリング)につながり得ます。肯定的な行動が少ない子ほど、注意ばかりになりやすい構造があります【仮説】。3つ目に、負担が少なく続けやすい(私の実感で、検証していません)。

認める声かけが変えるものを、私は3つに整理しています。良い結果が返ることの習慣化(強化の枠組みは【高】、教室では【中】)。本人の自己イメージ(属性を伝えると行動が変わった研究があります。Miller, Brickman, & Bolen, 1975、5年生対象。教室全般への一般化は応用)。周りから見たイメージ(【仮説】)。

問題行動は注意と本人の意識で改善する、という見方が学校現場には根強いと私は感じています。検証はしておらず、称賛と叱責のどちらが多いかは研究によって一貫しません(Drake & Nelson, 2021)。個々の先生の問題ではなく、共有された見方です。私自身も、以前はそう見ていました。

「話を聞く姿勢」は、静かに従うこと自体が目的ではありません。「良い行動を認めましょう」の“良い行動”はどう選ぶ?― 選択基準を言語化するで書いた、実行機能と学業達成の関連につなげる入り口です。

ここで説明できるのは、その人がいる場面で行動が出る部分までです。いない場面でも続くかは別の問いで、分かっていないことも多く、この記事では扱いません。

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