考えさせる授業が、うまくいかない本当の理由

教育の“思い込み“をゼロから疑う

――探究が「できる子だけ伸びる」構造を分解する

「考えさせる授業が大事」

「探究・問題解決こそ、これからの学び」

この主張自体に、異論はありません。

問題は“何から”考えさせているかです。

多くの教室で起きているのは、順番が逆になっているという構造的なズレです。

探究や問題解決で伸びるのは、誰か

結論から言います。

探究や問題解決で確実に伸びるのは、すでに「考える準備」ができている子だけです。

これは感覚論ではありません。教育心理学・学習科学の世界では、ほぼ合意が取れています。

なぜ「考えさせる」ほど、差が広がるのか

よくある教室の風景を、構造で整理します。

  1. 前提知識・基本技能が十分でない
  2. そのまま「考えよう」「話し合おう」と投げられる
  3. 動けるのは、もともと理解がある子だけ
  4. できない子は「参加している風」で終わる
  5. 教師からは、つまずきが見えにくい

この結果、どうなるか。

  • 探究がうまくいったように見える
  • でも伸びているのは上位層だけ
  • 格差は縮まらず、固定される

これが、探究学習やPBLの「上位層バイアス」です。

サッカーに例えると、何が起きているか

この話は、スポーツに置き換えると一気に分かりやすくなります。

  • トラップができない
  • パスも安定しない

この状態で

「戦術を考えよう」「ポジショニングを工夫しよう」

と言っても、機能しません。

できる選手だけが動き、できない選手は立ち尽くす。

学習でも、まったく同じことが起きています。

エビデンスが示していること

この構造は、研究でも裏づけられています。

認知負荷理論(Cognitive Load Theory)

提唱者の一人である John Sweller らは、

次の点を明確に示しています。

  • 初学者は、思考以前に「処理」で限界が来る
  • 前提知識なしの問題解決は、学習を阻害する
  • 結果として、伸びるのは元からできる学習者だけ

探究学習に対する決定的レビュー

Paul A. Kirschner ら(2006)は、

こう結論づけています。

初学者には、強いガイダンスを伴う指導の方が一貫して学習効果が高い。

つまり、

探究やPBLは「後段」に置くべきものだということです。

探究は悪くない。万能ではないだけ

ここで誤解してほしくないのは、これです。

  • 探究学習は否定していない
  • 問題解決学習も必要
  • 思考力は重要

ただし、全員に同時に効く魔法ではない。

学習科学が示しているのは、

「誰に・いつ・どの順で使うか」がすべてだという事実です。

では、どう設計すればいいのか

答えは、驚くほどシンプルです。

  1. 教える
  2. 分かる
  3. それから考える

日本の授業研究でも、

市川伸一 が示す

「教えて考えさせる授業」は、この順序を徹底しています。

ここで重要なのは、「教える=思考停止」ではない、という点です。

理解が成立して、初めて思考は機能する。これは思想ではなく、設計の話です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました