
――探究が「できる子だけ伸びる」構造を分解する
「考えさせる授業が大事」
「探究・問題解決こそ、これからの学び」
この主張自体に、異論はありません。
問題は“何から”考えさせているかです。
多くの教室で起きているのは、順番が逆になっているという構造的なズレです。
探究や問題解決で伸びるのは、誰か
結論から言います。
探究や問題解決で確実に伸びるのは、すでに「考える準備」ができている子だけです。
これは感覚論ではありません。教育心理学・学習科学の世界では、ほぼ合意が取れています。
なぜ「考えさせる」ほど、差が広がるのか
よくある教室の風景を、構造で整理します。
- 前提知識・基本技能が十分でない
- そのまま「考えよう」「話し合おう」と投げられる
- 動けるのは、もともと理解がある子だけ
- できない子は「参加している風」で終わる
- 教師からは、つまずきが見えにくい
この結果、どうなるか。
- 探究がうまくいったように見える
- でも伸びているのは上位層だけ
- 格差は縮まらず、固定される
これが、探究学習やPBLの「上位層バイアス」です。
サッカーに例えると、何が起きているか
この話は、スポーツに置き換えると一気に分かりやすくなります。
- トラップができない
- パスも安定しない
この状態で
「戦術を考えよう」「ポジショニングを工夫しよう」
と言っても、機能しません。
できる選手だけが動き、できない選手は立ち尽くす。
学習でも、まったく同じことが起きています。
エビデンスが示していること
この構造は、研究でも裏づけられています。
認知負荷理論(Cognitive Load Theory)
提唱者の一人である John Sweller らは、
次の点を明確に示しています。
- 初学者は、思考以前に「処理」で限界が来る
- 前提知識なしの問題解決は、学習を阻害する
- 結果として、伸びるのは元からできる学習者だけ
探究学習に対する決定的レビュー
Paul A. Kirschner ら(2006)は、
こう結論づけています。
初学者には、強いガイダンスを伴う指導の方が一貫して学習効果が高い。
つまり、
探究やPBLは「後段」に置くべきものだということです。
探究は悪くない。万能ではないだけ
ここで誤解してほしくないのは、これです。
- 探究学習は否定していない
- 問題解決学習も必要
- 思考力は重要
ただし、全員に同時に効く魔法ではない。
学習科学が示しているのは、
「誰に・いつ・どの順で使うか」がすべてだという事実です。
では、どう設計すればいいのか
答えは、驚くほどシンプルです。
- 教える
- 分かる
- それから考える
日本の授業研究でも、
市川伸一 が示す
「教えて考えさせる授業」は、この順序を徹底しています。
ここで重要なのは、「教える=思考停止」ではない、という点です。
理解が成立して、初めて思考は機能する。これは思想ではなく、設計の話です。

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